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第20回 広げようとして、初めて分かったこと

「この取り組みを、北海道中に広げたい。」

数年前の私は、本気でそう考えていました。

現在、浦幌町で取り組んでいる不耕起有機栽培を、もっと多くの地域で実践できないだろうか。

そう思い、岩見沢でも数年間、大麦栽培に取り組みました。

岩見沢は北海道を代表する穀倉地帯です。

大麦を育てる技術もあり、農業基盤も整っています。

条件だけを見れば、浦幌より適しているようにも思えました。

だから当時の私は、「きっとできる」と考えていました。

しかし、続けるほどに、その考えは少しずつ変わっていきます。

技術だけでは農業はできない

今振り返ると、一番足りなかったのは技術ではありませんでした。

私は畑を借りて栽培をしていました。

土地を貸してくださる方がいて、そのご厚意の上で農業を続けていました。

だからこそ、自分が理想と考える方法を「これでいきたい」と強く押し通すことはできませんでした。

もちろん、それは当然のことです。

土地には、その土地を守ってきた人の考えがあり、経験があります。

私には私の考えがありましたが、それを一方的に正解だとは思っていませんでした。

農業は、人との営みだった

当時の私は、不耕起有機栽培の技術ばかりを見ていました。

どう播種するか。

どう土を育てるか。

どう収量を確保するか。

けれど、現実の農業は、それだけではありませんでした。

農業は、人との営みです。

土地を貸してくださる方。

周囲の農家の方。

地域の営農の流れ。

そうした関係の中で、一つひとつの判断が積み重なっていきます。

私は、そのことを現場で学びました。

「できなかった」のではない

岩見沢での取り組みは、結果として続きませんでした。

これを失敗だったと言うこともできるかもしれません。

でも、私はそうは思っていません。

むしろ、

「農業とは何か」を教えてもらった時間だったと思っています。

技術は、本を読めば学べます。

論文を書けば整理できます。

でも、

人との関係の中で農業を続ける難しさは、現場でしか学べませんでした。

浦幌町で続けられている理由

今、浦幌町でこの取り組みを続けられているのは、

私一人の力ではありません。

考え方を理解し、一緒に挑戦してくださる農家の方がいる。

「一緒にやってみよう」と言ってくださる人がいる。

その信頼関係があるからです。

不耕起有機栽培は、一人ではできません。

製麦も、醸造も、一人ではできません。

ビールになるまでには、たくさんの人の理解と協力があります。

広げたいものが変わった

岩見沢での経験を通して、私の考えは変わりました。

以前は、

「不耕起有機栽培を広げたい」

と思っていました。

今は少し違います。

広げたいのは、技術ではありません。

それぞれの地域が、自分たちの土地を見つめ、自分たちなりの答えを見つけようとする姿勢です。

その答えは、浦幌と同じである必要はありません。

むしろ、違う方がいい。

地域には、それぞれの歴史があり、それぞれの農業があります。

だからこそ、同じ方法を広げるのではなく、それぞれの地域に合った形が生まれてほしいと思っています。


次回予告

「土地の個性が味になる。」

そんな意味で使われる「テロワール」という言葉があります。

しかし、現場で感じているテロワールは、もう少し違います。

次回は、

「なぜ、このビールは浦幌でしか生まれなかったのか」

という視点から、テロワールについて考えてみたいと思います。

この記事の著者

鈴木 將之

1969年静岡生まれ。大地に芽吹く大麦を育て、香り豊かなビールに醸す。人と人、地域と自然をつなぐ架け橋となり、持続する食と農の物語を紡いでいます。

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