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FIELD NOTE #022

浦幌でしか、このビールは生まれなかった。

「そのビール、他の地域でもつくれますか?」

そんな質問を受けることがあります。

技術だけを考えれば、答えは「はい」です。

同じ品種の大麦を育てることもできます。

同じレシピで醸造することもできます。

酵母もホップも、同じものを使えるでしょう。

でも、私は最近、

同じビールにはならない

と思うようになりました。

私たちは、土だけでビールをつくっているわけではありません。

ワインの世界には「テロワール」という言葉があります。

一般的には、

「土地や気候が味を決める。」

そう説明されます。

もちろん、それは間違いではありません。

でも、浦幌で農業を続けていると、

その言葉だけでは足りないことに気づきます。

味になるのは、土だけではありません。

春になれば、畑へ向かいます。

今年はどこから播こうか。

雨はいつ降るだろう。

風向きはどう変わるだろう。

収穫した大麦は、

そのままビールにはなりません。

私たちは、自分たちで製麦します。

毎年違う発芽の勢いを見ながら、

吸水時間を変え、

乾燥温度を調整し、

麦芽をつくります。

その麦芽を見ながら、

今年の醸造方法を考えます。

つまり、

畑の一年は、

製麦につながり、

製麦は醸造につながっています。

そのすべてが、

一本のビールの中に流れています。

浦幌を持ち帰るということ

私たちは、

ビールをつくっているつもりでした。

でも最近、

少し考えが変わりました。

私たちが本当に届けたいのは、

アルコールでも、

香りでもありません。

浦幌という土地で過ごした一年

そのものなのではないか。

そう思うようになりました。

春に種を播き、

夏に畑を歩き、

秋に収穫し、

冬に製麦し、

ビールになる。

その時間を、

一本の瓶に閉じ込めている。

そんな感覚があります。

テロワールとは、時間なのかもしれない。

テロワールは、

土壌や気候だけではありません。

そこに暮らす人が、

何を守り、

何を残し、

何を諦めずに続けてきたのか。

その積み重ねもまた、

味になります。

私は、

テロワールとは

土地に流れた時間

なのではないかと思っています。

だから、

浦幌で生まれたビールは、

浦幌でしか生まれません。

同じ原料を使っても、

同じレシピで仕込んでも、

同じ一年は二度とありません。

ビールは、地域の翻訳だった。

以前は、

ビールを商品として考えていました。

でも今は違います。

ビールは、

地域を液体に翻訳する仕事なのではないか。

畑で起きたこと。

人が積み重ねてきた時間。

その土地の風景。

それらを、

飲める形に変えているだけなのかもしれません。

だから私は、

毎年少しずつ違うビールを、

誇りに思っています。

違うからこそ、

その年の浦幌が入っているのです。

Today’s Question

あなたが旅先で買うものは、お土産ですか。

それとも、

その土地でしか生まれない時間でしょうか。

ビールもまた、

地域を持ち帰る一つの方法なのかもしれません。

この記事の著者

鈴木 將之

1969年静岡生まれ。大地に芽吹く大麦を育て、香り豊かなビールに醸す。人と人、地域と自然をつなぐ架け橋となり、持続する食と農の物語を紡いでいます。

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