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なぜ、100年前の大麦を、いま育てるのか。

100年前、この大麦を見つめていた研究者たちは、どんな未来を思い描いていたのでしょうか。

2026年の初夏、私たちは北海道十勝・浦幌町で、その大麦からビールを醸造します。

その名は、「北大1号」。

1917年、北海道帝国大学(現在の北海道大学)で育成された、日本で最初のビール大麦品種です。日本のビール産業の礎を築いた品種のひとつであり、その後に続く数多くのビール大麦品種の祖先ともいえる存在です。

しかし、時代とともに、より収量が多く、病気に強く、栽培しやすい新品種が次々と生まれ、北大1号はいつしか畑から姿を消しました。

農業は、常に新しいものを求めて進歩してきました。

より多く収穫できること。
より効率的であること。
より安定して生産できること。

それは決して間違いではありません。

私たちもまた、その恩恵を受けながら農業を営んでいます。

それでも、ふと立ち止まって考えることがあります。

新しいものを追い求めるなかで、私たちは何か大切なものを置き去りにしてはいないだろうか、と。

古い品種には、現代の品種にはない個性があります。

そして何より、その土地で積み重ねられてきた時間が宿っています。

100年前、この大麦を育てた人がいて、麦芽にした人がいて、ビールを醸した人がいた。その営みが脈々と続いてきたからこそ、私たちは今、この種を手にすることができます。

種とは、単なる遺伝資源ではありません。

人と土地、人と人、そして過去と未来をつなぐ生態資源なのだと思うのです。

私たちRIKKAは、不耕起有機栽培によって大麦を育てています。

土を耕さず、土壌生態系の力を借りながら、時間をかけて土を育てる農業です。

土は、一年でできるものではありません。

何十年、何百年という時間をかけて、無数の微生物や植物、昆虫たちが関わりながら形づくられていきます。

それは、北大1号が辿ってきた時間ともどこか重なります。

効率だけを考えれば、北大1号を栽培する理由はありません。

けれど私たちは、この大麦を育て、ビールを醸すことに意味があると考えています。

過去から受け継いだものを、現在の私たちが磨き、次の世代へと手渡していく。

それもまた、農業であり、醸造なのだと思うからです。

このビールに、私たちは「穂孕み(ほばらみ)」という名前をつけました。

穂孕みとは、穂がまだ姿を現す前に、その命を茎の中に宿している状態を指します。

外からは見えないけれど、確かに未来は育っている。

北大1号という100年前の種が、浦幌の土の上で再び命をつなぎ、新しいビールとして結実する。

その静かな営みを、この一杯に込めました。

私たちは、つい新しいものばかりを追い求めてしまいます。

けれど、未来をつくるためには、ときに過去へと目を向けることも必要なのかもしれません。

100年前から受け継がれてきたこの種に、あなたはどんな未来を託しますか。

この記事の著者

鈴木 將之

1969年静岡生まれ。大地に芽吹く大麦を育て、香り豊かなビールに醸す。人と人、地域と自然をつなぐ架け橋となり、持続する食と農の物語を紡いでいます。

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